本稿は、技術評論社刊『モバイルプレス』99冬号「自分Watch」に掲載されたものです。


INTERTOP CX300 with HP200LX
『CX300でハングルを書く』

●CX300がやってきた

 携帯用のマシンといえばHP200LX以外考えられない生活を続けていたところに、CX300がやってきた。率直な感想を言えば「予想に反して」CX300はいい。
 私の職場では、CEマシンというと、PC未満とでもいうような見方がされる。初代のカシオペアの印象だろうか。もしくは、スケジューラや住所録マシン、つまりPDAという見方である。CE2.11 だとかH/PC Pro 3.0 だとかの話題に疎すぎるのかもしれないが、それが現状だった。本誌の読者のみなさんからは呆れられるかもしれないが。
 だから、私が、このINTERTOP CX300(以下、CX300)を使っているを見た人は、それパソコン、えっ、CE、じゃあ、ハードディスクついてないんだ、でも、でかいね、という反応を見せ、200LXを肌身離さずもってる私が、なんでCEを使うのだ、と不思議がる。
 確かに、CX300は、一般にWindowsCEがもっているイメージを裏切る。だいたい画面がVGAだ。だが、私は、CX300を非常にいいマシンだと思う。

●PCと比べてなにが違うか。

 起動するのに時間がかからない。こんなにいいことはない。スイッチを入れれば、ほとんど一瞬にして起動する。Windows95のように旗をはためかせた長〜ぁい起動時間につきあう必要はない。それに、あの耳ざわりなハードディスクの音もファンの音もない。これがどれだけ嬉しいか。
 オフィスで使うパソコンは、出社して電源を入れたら、退社するまで入れっぱなしであるから、起動時間中は、お茶でも飲んでいればいいし、ハードデイスクもファンの音も、オフィスの空調やら周囲の物音の一部になってしまうので、さほど気にはならない。
 しかし、自宅で、家人も寝静まった夜中に、原稿を書く時に、ウィ〜ンという音に浸っているのは、私は嫌でたまらないのだ。
 私の場合、PC初体験が、NECの98LTといいう初代ラップトップでROMとFDのシステムだったからなのかもしれない。後に、EPSONの98互換機を購入したが、辞書ファイルをRAMディスクにのせて、文書ファイルはFD上。そしてHDDの電源にスイッチをつけてOFFできるようにしてしまったくらいである。いろいろなアプリを使えないじゃないかってって? 原稿を書くときに、そんなにいろいろなものを使いはしないから、全然問題にならなかった。
 これが、win95になって、そうはいかなくなってしまった。辞書はRAMディスク上にもっていたとしても、HDDの回転をずっと止めておくのは不可能だった。
 そういうこともあって、HP200LXは、私と相性が良かったのだ。

 よく言われるPDAとしてのCEだと、我がHP200LXと競合してしまうのだろうが、このマシンは、そうはならない。
 CX300には、モバイルスイートという、富士通製の統合ソフトが付いていて、これはこれで便利なのだが、さすがに、A5サイズを常時もち歩くわけにはいかず、スケジューラ、住所録は、200LXのままである。また、画面の見やすさは、バックライトが有効な条件では当然CX300だが、通勤電車の中などでは、200LXの方が断然見やすい。入力も200LXなら場所を選ばない。
 このマシンによって、私の個人用PCは3台になった。200LXの使用度は、以前とほとんど変わらない。ところが自宅のノートPCの使用度はめっきり少なくなった。Win95のノートPCは、起動に時間がかかり過ぎる。PCを起動する目的の大半が、メールを含めた文章執筆なので、HP200LXとCX300で済んでしまう。データもフラッシュメモリで200LXと共有されるので問題はない。もっとも、CX300ではレジュームが可能なので、作業終了後フラッシュメモリに保存しないで、200LXに差し替えて続きを書いてしまい、あとで慌てる、ということがないわけではない。まあ、なんとかなるのだが。
 200LX関係でいえば、ニュートン・キーボードの出番は、完全になくなってしまった。出張の新幹線の中での執筆は、CX300の方が安定して書ける。

図 出張に同伴するCX300。カーテンを引かないと画面はちょっと苦しい。

●Poket WINKPADでハングルを入力する


 さて、本稿の目的は、WINKというハングル入力環境の試験であった。WINKとは、株式会社シージーエスが開発した朝鮮語のIMEで、ここで紹介するのは、そのパッケージ(WINK98 ver4.0)に付属しているCE用のPoket WINKPADというCE用のソフトである。本誌秋号の「HP200LXで『ポケットにハングルを!』」の続編みたいなものだ。
 PWINKPAD(PoketWINKPAD)とはなにか。「ハングル・エディタ」である。本体のWINK98と違って「ハングルIME」ではない。つまり、これだとWORDのようなアプリケーションにハングルを入力することはできない。本体のWINK98は、ハングルIMEなので、WORDのようにフォントを指定できるアプリケーションにハングルを入力することができる。

株式会社 シージーエス URL=http://www.cgs.co.jp

●インストールは、いたって簡単


 PWINKPADを適当なディレクトリにコピーし、フォントファイルを、windows\fontsにコピーするだけでおしまい。デスクトップにショートカットをつくると、朝鮮半島のアイコンが現れる。

図 ショートカットのアイコン

 使用される文字コードは、いわゆる「シフトKS」と呼ばれるもので、日本語のシフトJISのコード空間に、ハングルの文字コードを割り当てたものだ。マニュアルでは「CGSコード」と呼ばれている。
 内部コードにシフトJISを用いている日本語環境では、漢字の二バイト目にきてはいけないコードがあって、それがあると、イレギュラーとして処理されてしまう。いくらアプリケーションが、コード体系に対応していても、OSがあらゆるコードに対して透過的に機能するわけではない。そのために、ある時期までは唯一のハングル利用可能メーラであった、IE3付属のInternet Mailは、ハングルは通るものの、抜けてしまう文字が出てしまった。空欄補充問題をやらされているような感じになった。内部コードがUNICODEになったwin98以降では、こういった制約からは解放されているのかもしれない。CEは、その意味では、旧世代に属するのだろう。
 こういう事情があるので、ハングルのIMEでは、インターネット上で使われるKSコード(日本語でいえばEUCにあたるコード空間)の文字を扱うソフトと、ワープロなどで使うソフトが別々に開発されることになっている。だから、フォント指定ができる日本語環境で使える入力システムは、メールやWebでのフォームなどの入力には使えない。だから、このWINKも、あくまでも日本語環境でハングルを扱うための仕組みなのである。
 もっとも、こういう文字コードであるために、フォントを切りかえることで、日本語と朝鮮語混在の文書を簡単に作れるという点は、メリットではある。後ほど、混在の仕方も触れてみる。

●ハングルを入力する


 では、ハングルを入力してみよう。
 設定することは、キーボードの選択くらい。私は、2ボル式しか知らないので、それを選ぶ。2ボル式は、メニューの「KS標準」である。

図 オプション、キー配列の図

 あとは、普通のエディタである。メニューも日本語だし、わかないことはない。
 ファイル名は、テキストファイルなので、*.txtの形になるが、別の拡張子も選ばせてくれればいいのになと思う。
 私は、KSコードのファイルは*.KSにしているし、通称シフトKS、KoreanWriter(高電社のハングルワープロ。シフトKS方式の元祖)形式は、*.KWとしていたのだが、CGS社としては、競合他社の名前を付けるわけにはいかないのだろうが、TXT以外も使えるようにして欲しい。
 ついでにいうと、フォントは一種類しか使えない。CGSゴシックというものなのだが、希望としては、もっと素直なハングルフォントが使えたらと思う。このCGSゴシックは、文字が大きくなると太字になって、文字によっては、ちょっと苦しいところがある。細めのオーソドックスなフォントで使ってみたい。文字の大きさが3種類選べるのだが、中と大ではつぶれてしまうものがある。
 フォント名は固定なので、きっと、別のフォントでも、名前を、CGGOTHICにして、やればいいのではないかと思ったのだが、拡張子がTTCなので、TTFは使えないかもしれない。フォントファイルは5Mあるので、メモリ16Mの基本構成のマシンにとっては、複数入れて切りかえるというのは、ちょっと厳しい。

図 オプション フォントサイズの図

 フォントについて文句をもう一つ言うと半角の数字というものがない。一バイトの数字を「半角」として表現できない。実は、文字コードを調べるために、シフトJISの文字コードファイルを表示させてみたのだが、ちょっと見ずづらくなってしまった。

図 「尹東柱 序詩」文字の大きさ「小」


図 文字の大きさ大、中 (ご参考まで)

●バグ?


 WinodwsCEの本体のフォントはどこにあるのかわからないのだが、PWINKPADで使うフォントは、windows\fontsに格納する。だから今、ここには、このCGGOTHIC.TTCしかない。で、このフォントが、PWINKPAD以外にも顔を出す。
 ポケットWORDでアウトラインプロセッサ機能を使っているときに、新しい項目を作ろうとIMEを起動し、入力を始めると、未確定状態での文字表示にハングルの字母があらわれてしまう。確定すると、ちゃんと日本語に戻るし、それ以降、ちゃんと日本語になるのだが、動作としてはおかしい。フォント・ファイルの拡張子をrenameして実験してみたら現象は消えたので、システムが、このディレクトリのフォントを参照にきているであろうことは想像できる。しかし、ここには、PWINKPADをインストールしないとフォント・ファイルはないのだから、レジストリがおかしくなっているのだろうか。
 もっと困った事態も起こる。
 Win95で作成したWORDのファイルをポケットWORDで読んでいたら、CX300にないフォントが使われていた部分が、すべてハングルになってしまった。また、InkWriterという文字も手書きも図も書けるWORDの兄弟のツールがCE2.11からついているが、図を書いてみたら、そこのキャプションがハングルになってしまった。図1とかなんとかなっている部分が読めない。これは困る。
 解決するまでは、ハングル入力をしないときは、フォントをrenameする必要がある。
 どうやら、CE2.0からCE2.11になってそのあたりの動作がかわっているようだ。シーイーエスさんのマニュアルでは、CE2.0で使うという記述があるから、CE2.11への対応版をお願いしたい。

●ハングル日本語混在文書


 なんか文句ばかり書いてしまっているが、PWINKPADのマニュアルにはない使い方を一つ。
 まずハングルの入力を、PWINKPADでおこなう。先に提示した「尹東柱 序詩」を使おう。
 PWINKPADで書いた部分を領域指定しCOPYし、ポケットWORDにPASTEする。当然、最初はバケるが、フォントを「CGゴシック」にしてやればハングルになる。今度は、WORDなので、フォントのサイズをいろいろ選べる。タイトルを16ポイントにして本文は14ポイントにしてみた。14ポイントだと字はつぶれない。
 そして、今度は日本語を入力していく。入力する行頭で日本語フォントを指定してやらないと、文字がハングルになってしまうが、一文字「MS Pゴシック」で適当な文字の大きさの字を入力したら、それをCOPYしておいて、行頭にPASTEすれば効率よく指定できる。

図 「尹東柱 序詩」ハングル+日本語訳付き
(伊吹 郷訳『空と風と星と詩 尹東柱 全詩集』影書房、1984)

 こうして、ハングル日本語混在表示ができあがる。
 印刷したい時は、WINK98をインストールしてあるWin95で、CGSゴシックを使ってWORDから出力してもいいが、CX300からFAXに出力してもいい。もちろん、直接印刷することも可能である。
 また、ここでやった混在文章の作り方は、InkWriterでも同様に可能だ。

 なお、CX300に、MP3のソフトをのせれば、win95上でwavで作成されている韓国語教材のファイルを1/10の大きさにして聞くことができるから、独習教材も作れるかもしれない。韓国で売っている「本場の韓国語」(URL=http://bora.dacom.co.kr/~yamujin/japan/MENU.HTM)は、音声ファイルにwavをつかっているのでMP3に変換できるし、テキストファイルも、KSだが(KS-sjis混在もある...)WINKのツールでCGS形式に変換すれば、読めるようになるので、CX300上にもってくることも可能だ。時間を見つけてやってみようと思う。

●CX300は、面白い


 今回は、「CX300でハングルを書く」という内容になってしまったが、実は、このマシン、職場でも大活躍である。VGAの画面は、外部ディスプレイに接続できるのでプロジェクタにつなげる。客先でのプレゼン用にも、また大学での講義にも使える。電源を入れてから、相手を待たせないで済むというのは、ありがたい。
 また、一部キーのマッピングに問題はあるものの、英語版のTSE(WindowsNT Terminal Server Edtion)クライアントが動く。これは、MSのサイトからダウンロードできる。そして、IBMメインフレーム用の3270エミュレータ、AS/400用の5250エミュレータも使えているし、基本エディタのMeadowだって、フル機能のOFFICEだって使える。TSEなんだからあたりまえと言えばあたりまえだが。本当は、富士通が、CITRIXのMetaFrame用のクライアントをリリースしてくれれば、もっとスマートになるのに! 次回は、このあたりの話も書いてみたい。
 腰に200LX、鞄にCX300、そして、机でも、客先でも、大学でもCX300だ!

藤本一男
E-mail kazuo.fujimoto@nifty.ne.jp
メモレックス・テレックス株式会社 勤務
津田塾大学 非常勤講師「情報と社会」担当