CX310 with HP200LX(part 4)

アウトライン・プロセッサへのこだわり

技術評論社『モバイルプレス』2000年秋号
pp116-119

ほとんど入稿時データなので、雑誌掲載時のものとは、若干異なっているかもしれません。時間をみつけたら直しておきます。2002/11/23

■アウトライン・プロセッサとの出会い

 今回は、HP200LXとWindowsCEで私が使っているアウトライン・プロセッサのことを書きたいのだが、200LXやCEの話の前に、アウトライン・プロセッサとの出会いを書いておきたい。
 パソコン通信を始めたのが87年ころだっと思うが、PDS、フリーソフトを目当てに、PC-VANのチアリSIGに出入りしていた。そこでのソフト一覧のファイルがあったので、ダウンロードしたのだが、なんとテキスト・ファイルではない。拡張子がPCOというもので、これは、PC-OUTLINEというソフトで読むらしい。それなら、とPC-OUTLINEをダウンロードするのだが、これがPC-AT用のソフトだった。なんだよぉと思いきや、みなさん、これにパッチをあて、SIMというPC98上で動くPCATシミュレータ上で動かしていることを知る。そうして出てきた画面に驚いた。
 Web、HTMLが普及している今日では、ハイパーテキスト、アウトライン構造と言っても、珍しくもないかもしれないが、当時は衝撃的だった。文章の階層構造は自由に変更できるは、それにあわせて章の見出しは番号は変わってくれるはで、なるほどコンピュータを使うとこういうことができるんだ、心底思わせてくれるソフトだったのだ。
 当時、制御系のマイクロ・プログラムをアセンブラで書くことを仕事にしていた私はさっそく、これを使ってマニュアルを書いた。文章の全体構造を一望に見渡せるというのは快感なのだ。こんなことがきっかけになって、規模が大きな文章も書くことができるようになった。
 最初に使っていたのが、98LTという9801とは互換性のない初代ラップトップなのだが、このマシンでのPCO on SIMは時々ハングした。EPSONの国民機になってからは、ずっと安定していたので、暫く愛用することになる。
 東芝のJ3100が出たら、これに移植する人がでた。ここでは、JshotというソフトをSIMのかわりに使っていた。で、このjshot用のパッチをあてたPC-OUTLINEは、DOS/Vになってからは、SIM/Vというソフトを介して利用できるようになっている。これは、CFCの西川さんが作られたものだったと記憶しているが、PC-OUTLINEが玄人筋に愛用されていたことがよくわかる。

(図1 PCOのかっこいい画面:日本語)

 というわけで、アウトライン・プロセッサ初体験が、PC-OUTLINE(以下PCO)だったのだが、これが後々まで尾を引いた。
 また、Winodws3.1まではDOS環境でなんとか使っていたが、Windws95のDOS窓ではIMEとの相性が悪いのか日本語入力の途中でよくハングした。それで、DOS窓用にWXZをインストールして使っていた時期もあったが、PCOの環境としては段々と苦しくなってきた感じだ。

■PC-OUTLINEへの思いは断ち切れず...

 HP200LXでもPC-OUTLINEは動く。英語モードではもちろん、DOS/Cで日本語化した環境にSIMVをのせれば、J3100用パッチのあたったPCO334が使える。モバギアでも使っている人がいると思う。ただ、25行表示では日本語はやはり厳しい。11行モードだと、今度は、VGA画面の下半分が見えない。200LXで、VGA画面の上半分/下半分を切替えて表示させることができれば、いいのだろうが、そんなもの自分では作れないし、動くことを確認しただけで終わってしまった。
 なお、200LX上で、SIMVを使ってPCOを動かす際に、DOS/Vでの環境をそのままもってくると大変なことになるので御用心。DOS/VでPC-ATのASCIIの拡張文字部分(罫線文字など)を表示させるためにはchgfntというモジュール(SIMVに同梱されている)を使うのだが、これを200LXでそのまま使うと、暴走してハングするだけでは済まずにC:ドライブのRAMまで破壊してくれる。私は二度ほど泣いた。フォントのメモリ空間が異なるからだろう。HP200LXでは、chgfというモジュールを使用しないといけない。これは、@niftyやringサーバーの以下のところで手に入る。

ftp://ring.aist.go.jp/pub/pack/dos/util/emulate/simv10.lzh
ftp://ring.aist.go.jp/pub/pack/dos/util/machine/ibm/massif/chgf01.lzh

 他方、Vzエディタでもアウトライン・マクロが何種類か発表されていたので、これらも一時期使ってみたのだが、PCOのLook & Feel を知ってしまっている身としては、どうしても使い続けるようにはならなかった。これは、今のWzやPWzのアウトラインモードでも同様だ。
 今回は、詳しく触れないが、ワープロ・ソフトのアウトライン機能は、オマケ程度なのが現状のようだ。我が家では、WindowsとMacの共通アプリケーションとしてクラリス・ワークスを使っているのだが、このワープロにもアウトライン機能がついてはいる。しかし、下位階層を隠せないので、階層構想の清書機能のように使えるだけである。HP200LX付属のmemoのアウトライン・モードも同様で、MSのWORDやPowerPointのものと似たりよったりだと思っている。
 emacs/mule/Meadowのアウトライン機能は、PCOに比べると地味だが悪くはない。TeXファイルを編集するelispパッケージにYaTeX(やてふ)というのがあって、愛用させていただいているが、これにアウトライン・モードをかぶせることもできるようだ。PCだけでなく、HP200LX、CX310でもフルセットのmuleが動けば文句無しなのだが。なお、こいつのアウトライン・モードの簡単な解説メモは、次のURLをご覧あれ。

http://edu.tsuda.ac.jp/‾fujimoto/is-1998/mule-outline.html

■ANTON氏のIP

(図2 IPの図)

 で、ANTON氏のIP(アイデア・プロセッサ)は、こういう状況を一変させてくれた。HP200LX用のかなり使い勝手のいいアウトライン・プロセッサが登場したのだ。IPは、私のHP200LX上のなくてはならないツールの一つである。これは、VzやWzのようなマクロによるアウトライン表示ではなく、PCOで味わっていたそれであった。2000円のシエアウェアだが、登録するとWIPというIPとデータの互換性があるWindows95用のソフトをいただける。これで、Windows95とHP200LXで共通のアウトラインプロセッサが手に入った。

http://rd.vector.co.jp/soft/dos/util/se059763.html

(図3 WIPの図)

 腰にぶらさげたHP200LXで、いつでもどこでもアウトラインを自在に書けるようになった。
 その後、CX300が手に入ったので、作者のANTONさんに、CE用の予定はないのですか、と問い合わせたところ、CEには、あまりそそられないというご返事。これは、各人の好みだし、作者がそうおっしゃるのなら仕方がないので、あきらめることにした。

■PCOへの想いを断ち切ってくれたideatree

 そうして見つけたのが、ディクレのideaTreeというアウトライン・プロセッサだった。本誌の付録CDにも収録されている。実は、CE版を先に見てこれで、ideatreeへの印象を持ってしまったのは少々まずかったな、と後で思った。これのWindows版の凄さを同僚に教えてもらうまでは、「まあ、こんなもんか」と思い込んでいたのだ。

http://www.dicre.com/soft/itreece.html

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(図4 Ideatree CEの図)

 Ideatreeを使う人は、CE版だけでなくWindows版もあわせて触りましょう。CE版は、こちらのサブセット。Look & Feel は、ANTONさんのIPと同じく、PCOを知っているものにも抵抗がないはず。加えて、Windows95用のideatreeでは、チャート表示やHTMLへの出力もできる。なかなかのすぐれものである。これで、PCOは過去のものになった。

http://www.dicre.com/soft/itree.htm

 HP200LX-Windows95-CX300、とすべて同じファイルを扱えれば文句ないのだが、IPと
ideatreeの組み合わせ状態になってしまった。まあ、どちらも構造化テキストへの出力や読み込みができるので、いまのところ、なんとかなっている。

(図5 Ideatreeの図)

■PC-OUTLINEの現在

 では、PCOは、どうなっているのだろうかと思って、3年ほど前に調べたことがあった。かつてはBrown BAG Softwareなる会社が販売していたのだが、今は$ATLANTIC COSTというイギリスのシェアウェア会社が扱っている。
 当時、「PC-OUTLINEのファンなのだけど、あれのWindows版はでてくるのか、でてくるなら、最初から日本語も通るようにしてくれ」とメールを書いた。すると、インドでWindows版を開発しているから、ちょっと待て、という返事がきて、できたらメールするからな、と言っていたが、それっきりになっていた。
 この原稿を書くので改めて調べてみたら、めでたくPC-OUTLINE for Windowsがリリースされている(2000年6月30日 version 1.0)。もっとも、ideatreeやIP/WIPがあるから、今更「使ってよ」と言われても、「ごめん、今、付き合っている人がいるの。幸せなの」状態だ。でも評価版がダウンロードできるようだし、一度は会ってみてもいいかもしれない。win95では、とりあえず日本語は使えた。KSコードのハングルはだめみたいだ。でも、対応プラットフォームにWindows2000も入っているから、UNICODE対応になっていて、日本語だけでなく中国語やハングルも使えてしまったら、どうしよう、と多少はドキドキしてないわけではない。実に、昔の恋人との再会の気分だ。
 なお、このWebサイトで会社案内を読むと、イギリスでのシェアウェアの歴史が書かれていて面白い。

http://www.atlantic-coast.com

■ところで「アウトライン」ってなんだ

 パソコンを使った論文の書き方を扱っているものは、大抵、アウトライン・プロセサに触れているようだ。でも、アウトラインやパラグラフとはなにか、ということは別の本を読んだほうがいい。私は、学生達にレポートを書かせるにあったっては、澤田昭夫氏の『論文のレトリック』『論文の書き方』(ともに講談社学術文庫)を紹介している。あとは、木田是雄氏の『理科系の作文技術』(中公新書)や『レポートの書き方』(ちくまライブラリー、現在、ちくま文庫)などもいいと思う。それと、もう、手に入らないかもしれないが、1987年の放送大学の英語のテキストで、『Reading Academic English』(比嘉正範)という本があって、これが、本格的なアウトラインの世界への入り口だったように思う。ついでにいうと、この比嘉先生のお弟子さんに、都立大の大学院生時代に英語とアウトラインを教えていただくチャンスに恵まれた。あれは嬉しかった。
 アウトラインとはなんだ、ということは、上記の本を読んだり、よくできた目次を見ればいいのだが、エンサイクロペディア・ブリタニカ(全35冊)の索引巻のMacropaediaが面白いので、図書館などで見てみて欲しい。よく目にするいわゆる「索引」とは違って、アウトラインで階層構造に組織された立体構造の索引が楽しめる。事項索引の巻(Micropaedia)で、Macropaediaのどこにあるかを調べて、調べているものが、ブリタニカの知の体系の中のどこに位置しているのかを調べる。Macropediaで見つけると、調べている事項の上位、下位、関係項目が、一望のもとに見渡せた。
 95年頃だったが、このエンサイクロペディア・ブリタニカがCDになって、ユーザ・インターエースにNetScapeが使われ検索エンジンにwaisが採用されたことを知ったとき、あのアウトラインで記述された知の森がWebのリンクになったのだとえらく感激してしまった。でも、もう紙の百科辞典は作らないというから、最新のものはCDやWebのリンクで見るしかない。私としては、印刷版のアウトラインのリンクの壮大さが、Webになってしまって見えなくなってしまったような気がしているのだが、どうだろうか。

(図6 ブリタニカCDでのアウトラインの図)

 ちなみに、ブリタニカ・オンラインは、今は無料のサービスをしている。

Encyclopaedia Britanica Online http://www.eb.com
EB Online http://www.britanica.com

■考えをまとめるときの友

 さて、実際にどのように使うのか、という話になると人それぞれになってくると思う。自分の頭の中に閃いたり、雑然とした中から沸き上がってきたアイデアを、階層構造で整理することを助けてくれるツールなのだから、使う人の発想の癖や流儀よっても変わってくるのだ。マニュアルや共同執筆の報告書のように、各部分の独立性が高い文書だと、アウトライン・プロセッサでの構成検討だけですんなり最終型になることも多い。しかし、まだはっきりしていないアイデアを文章化しながら論文にする作業となるとそう単純な話ではない。
 まず、言いたいことを一行に要約したキー・センテンスを思い付く限り描き並べ、次に、これをグルーピングし、階層構造にまとめてアウトラインを作る、というあたりはどの本にも書いてある通りのことをしている。ただ、私の場合、残念ながらこれだけではすまない。こうして作ったアウトライン(「一次アウトライン」)に対して、本文をどんどこ書き込んでいくとはらはらとアウトラインが崩れていく。最初のころは、その崩れに気付いたらアウトラインを修正してから、それから書き続けていたのだが、そうすると今度は、この訂正されたアウトラインに本文が引きずられるような感じがして、書き辛くなってしまうようになる。アウトラインが崩れないように気を使って、筆の勢いがそがれてしまうのだ。本末転倒。
 それで、一次アウトラインを作ったら、とりあえずそれをもとに、エディタで、ダーっと一気に全体を書いてしまうようにしている。アウトラインが崩れようと脇目もふらず、ひたすら書く。その「勢い」は結構大切で、書きたいことが指から出てくる時は、脱線しようがなにしようが書きまくった方がいい。
 こうして出来上がった文章を、改めて、アウトライン・プロセッサを使いながら構造化していく。こうして出来た「二次アウトライン」の段階になると、最初にキー・センテンス(だと思って)書き連ねて作成したアウトラインよりも、自分が言いたかったことがくっきりしたアウトラインを手にすることができる。ここまでくると、あとは、文章の細部の修正を行うことで、だいたいの形にはなっくる。もっとも、締切りは目前だったり過ぎていたりするが。
 常日頃同じテーマに継続した時間をさける場合には、この一次アウトラインは限りなく二次アウトラインに近いものになるのだが、会社の仕事の合間に、休日や通勤途中を使って考えていることには、こういう段階的アプローチでもしないと、まとまった文章にするのはむずかしい。日記の形式で、日々発想の断片はエディタで書きためているが、やはりどこかで集中してまとめる事をしないと、断片は断片のままでゴミでしかない。
 その意味で、アウトライン・プロセッサは、こうした集中して考える時のかけがえのない「友」なのだ。

■これからもアウトライン・プロセッサ!

 私のWebを訪問していただいた方から、会社勤めと論文執筆とよく両立しますねと言われる事がある。二足のワラジ生活には、職場の同僚や上司、そして家族の理解がなによりも前提なのだけど、200LXやCEがあるから通勤電車の中でも文章が書けるからだ。このアウトライン・プロセッサが使える事で、畳の上に足の踏み場もないくらいにメモやらカードやらを並べてあれこれ構成を考える事が、どこでもできるのだから。