「洋式歩行でもハイヒールでは踵着地ができないように、履物によっても歩行法は変わる。たとえば「足 半あしなか」という長さが半分しかない草履がある。絵巻物によると、旅や運搬作業での着用が見られることから、足半は裸足を常とする人たちのすべり止め用らしい(長良川の鵜匠は現在も着用している)。絵巻物を概観すると、足半は機能的にも身分・作法的にも裸足と草履の中間の存在であることがわかる(図4(右図は図4の誤り)。
裸足に慣れている当時の庶民は、足半を履いていてもすり足をしていたようで
あるが、足半に合わせてつま先立ち姿勢をとることによって、足半特有の歩
行運動が実現する。つま先立ちの静止姿勢で、最初の一歩を踏出すと、重心が前
に移動するので、自然に後方蹴り出しになる。
すると、蹴り出しからの慣性力だけで上体が着地足よりも前方に出る。
重心が依然として足より前方にあるため、次の足がまた自然に着地足の前に出る。この推進原理は洋式歩行に近い。ただ洋式歩行と違って、一歩ごとの後方蹴り出しが不要となり、最初の一歩以降は、ほとんど慣性の力だけで前進できる。足半を実際着用してみると、非常にエネルギー効率のよい歩行を実現する履物であることがわかる(むしろ制止時に制動力を使う)。これは、ナンバの「地球重力をじょうずに活用して、前に倒れながら移動」(小林、2004)という歩行原理を実現しているといってよい。この利点のため、足半は図4のように馬に乗らない下級武士(歩兵)の履物として戦場で使われるようになった。」
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